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空想DIYを紹介するページです。


サーモクロミック液晶の自作

サーモクロミック液晶は高価である。
それでは、自分で作れないかを考えてみた。
とは言え、日本では個人が化学実験することへの忌避感が強烈で、入手可能な素材が非常に狭い。
こんな国で本当に作れるのだろうか?。というか、こんなんで将来日本の化学技術は大丈夫なんだろうか?。
などと言って、何も作っていません。と言うか、所詮素人の空想工作。何を知ったかぶりを、って状態です。

1.  サーモクロミズム

サーモクロミズムを実現するには、一般にコレステリック液晶か、ロイコ染料を用いるらしい。
コレステリック液晶は分子の捻じれのピッチによる構造色であり、
温度による構造変化により反射する波長が連続的に変わり、この波長が可視光範囲の時に色として見える。
一方、ロイコ染料の可逆性示温剤は、ロイコ色素と顕色剤と、これらを引き離す第3の溶媒を含む。
第三の溶媒が溶融すると色が消える。
このように、
コレステリック液晶は原理的に反射であり、可視光全域で連続的に変色する。
ロイコ染料は通常の染料のように特定の(比較的自由な)色が選択できるが、
基本的には色がある温度で消失するというデジタル的なもので、温度による連続的な変色の実現は難しい。
ということで、出来れば透過の方がありがたいけれども、
今回は広い温度での連続的色変化を優先するということで、コレステリック液晶を選択する。

2. コレステリック液晶を作る

コレステリック液晶は、理屈的には、ネマチック液晶に対し、
液晶分子にねじれを付与するカイラル剤(キラル剤)と呼ばれる添加剤を加えて作り、
この比率を調整することで螺旋のピッチを調整する、とされる。
液晶のキラリティは大抵は不斉炭素がキラル中心となる(原因となる)とのことだが、
これは各種のコレステリック液晶が各々の形で持っているので、
実際には複数種のコレステリック液晶を適当な比率で混合することにより螺旋のピッチを(部分的に?)調整する。
実際、カイラル剤として一般的に用いられているコレステリルノナノエートもコレステリック液晶である。

ということで、まずは複数種のコレステリック液晶を作る必要がある。

コレステリック液晶の作り方は以下のようなもの。
コレステロールとカルボン酸(エステル化の素)とピリジン(触媒)(と必要に応じジクロロメタンなどの溶剤)
を50〜100℃くらいで1〜数時間くらい湯煎に掛け(揮発物は冷却し還流する)、
冷ました後(必要に応じ反応のため数日寝かせる)洗浄し、乾燥させる。

洗浄は例えばアセトンと混合してアセトン側に溶かし出し、静置して分離させた後、
アセトン側を取り出し、アセトンを蒸発させて(蒸発させたアセトンは冷却回収する)
残渣としてコレステリック液晶を得る。

まず問題は、コレステロールの入手である。
別に規制されているわけでも何でもないが、Webで探すのが難しいのである。
既に否定されたかつての「悪玉コレステロール」話を信じたまま年を取って判断力の衰えた人から
お金をだまし取るような商売が日本ではまだ広く残っていて、
コレステロールを減らすための食品やら補助食やらがわんさか検索に掛かる。
(コレステロールが不足すると血管の修復能力が低下して脳卒中死亡率が上がるので、
年を取ってコレステロールが不足すると危ない、というのが最近の考え方です。
食べ過ぎて極端に太るのがいけないのであって、コレステロール沈着はむしろ自己保護作用だったと言う訳です。
食事は嗜好や流行に流されて偏ってはいけないのです。また多過ぎても少な過ぎても良くないということです。
閑話休題。)
きっと日本でも幾らでも売っているのだろうが、海外から購入した方が簡単そうである。

ジクロロメタンは、アクリルの接着剤として売っている(二塩化メチレンと書かれているが同じもの)。
イレクターパイプの接着剤でも良いらしい。塗料剥がし剤もそうなのだろうが、成分を明記していないような
胡散臭い溶剤が多いので、探すだけ無駄かもしれない。
(主要成分が表示されていないシンナーを使う方が遥かに危険だと思うのだが、
なぜか日本では成分を目につかなくすれば子供のシンナー遊びを止めさせられると思う人が多いようである。
理解はできないが、塗料メーカーには好都合だろう。
何が混ざっているかよく分からない安い溶剤を堂々と混ぜられるのだから。
脱線が多いな自分。)

ピリジンの危険性は灯油程度でガソリン以下という感じであるが、これは日本では入手が難しい、
と言うかあまり個人では使わないので個人で購入するととても高額である(調べてみたら150倍の価格であった)。
しかし可燃液体なので海外から買う訳にもいかないだろうし、これは結構ネックである。
・・・と思ったら、60℃で引火性蒸気を発生しないように密閉されたものは国際郵便として送れるとある。
少量ならば、探せば海外発送可能な所があるかもしれない。

次は、カルボン酸である。カルボン酸の炭素数が小さい方が発色させやすく、変化温度範囲を広く取れるようだ。
カルボン酸は食品や獣がらみの成分が多く入手性はそれなりに期待できるが、人が匂いとして敏感な成分でもある。
取り分け、酪酸やノナン酸(ペラルゴン酸)あたりは臭気の問題で家庭で扱うには少々問題がある。
(そもそもピリジン(コーヒーの香り成分の1つだが、香水のアンモニアに相当する、つまり単独では臭いらしい)
を使う段階でダメだろう、という話もあるが。)
家庭で扱うとしたら氷酢酸や安息香酸のような食べ物の匂い系やいい香り系に限られるだろう。

アセトンはホムセンで普通に売っている(例えばFRP用として)。

ということで、コレステリック液晶は食品がらみの結構身近な素材から作れそうである
(もともとイカの肝臓から抽出したコレステロールを安息香酸でエステル化して作られたのが始まりだそうだから、
身近なものなのだろうが)。
ピリジンさえなんとか入手すれば、幾つかのコレステリック液晶は作れそうである。

3. マイクロカプセルに封入する

液体のままでは扱いにくいし、小学生の実験のように樹脂板の間に挟んで周囲を接着するというのは、
樹脂板が熱線を通さないので問題である。
従って、市販のサーモクロミック液晶インクと同じようにマイクロカプセルに封入することを考える。
油性溶剤に溶ける成分をマイクロカプセルに封入するには、乳化現象を使うのが一般的である。
方法は幾つかあるようだが、簡単そうな2液性の水溶性塗料を用いる方法について考えてみよう。

コレステリック液晶を油性溶媒(酢酸エチル(除光液の主成分)など)に溶かして
水(水に界面活性剤(台所用合成洗剤)とポリビニルアルコールかメトローズ(セメントに混ぜる奴)を
各々僅かに混ぜた水溶液)を混ぜて(イメージ的に粘度とろとろ位?)乳化した後、
水性2液ウレタン樹脂(例えば水性高耐久2液ウレタンニスなど)の硬化剤を混ぜ、
その後水性2液ウレタン樹脂の主剤を混ぜ、50〜100℃に数時間保つ(使う樹脂の硬化時間による)ことで出来そうだ。

出来た粒は洗って乾かす(水道水の中空糸フィルターで濾しながら水を流すとか、
あるいは多量の水で薄めてから静置し沈殿物を得れば良いと思われる)。

より粒径を揃えたいなら、最初乳化する際に、多孔質ガラスを通して水に押し出すと良いらしい。
ただし、この場合は多量の水に押し出して、あとで濃縮することになる。
多孔質ガラスはSPGが世間を賑わせているが、
すりつぶして粉にしたガラスと食塩を水か溶剤で練って粘土状にして形を作ったものを乾燥させ、
電気炉で焼き固めて、冷ましてから塩を洗い出す、といった程度の物で十分だろう。

空想工作的には可能そうだ

ということで、個人で作れなくもなさそうである。
しかし、やっぱり面倒だし、これだけの行程を踏むと結局結構な出費になりそうだ。


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