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空想DIYを紹介するページです。


錫と鉛(混ぜると融点が下がる理由)

例えば鉛と錫のように、複数の金属元素を混ぜると元の融点よりも低くなることがある。
今回はこの現象に関する空想について書いてみようと思う
(ほぼ一般的な解釈と合致していると思うが、解釈は人それぞれなので一応個人的な空想としておく)。

そもそも融点とは何だろうか?。

人の目で(人の等身大、人の時間感覚で)ぼんやりと観察する限りにおいては、
加熱により固体から液体になる現象は皆同じに見えるが、
外殻s軌道電子(=軌道に方向偏りが無い)が比較的深いポテンシャル井戸の中で緩々と動き回り
元素周辺の電界の方向性の相当分を相殺してしまう金属元素の固体に対して、
例えばp軌道やd軌道(=軌道に方向性がある)が分子軌道となって複数の原子核の周囲を巡り
方向安定性をより強く保存してしまう共有結合固体を一括りに想像するには、
各々あまりにも個性が強過ぎる。
そこで以降は金属の融点に限定して考える。

まず、「固体に見える金属は、実はかなり原子が動き回っている」ということを知らねばならない。
金属においては、原子相互の位置関係に対する束縛は非常に緩く、
多くの金属において常温ではそれほど支配的ではない
(というか、支配的ではないことに起因する性質を、漠然と「金属」と認識している所が大きい)。
従って金属原子は概ねただ凝集しているだけである。
ただ凝集しているだけだから、ほぼ最密充填となる。
この「ほぼ」というのが重要である。
原子の集団は温度によって膨張しようとするので、常温では完全には最密充填とならず、
僅かばかりの隙間(空孔と言う)が出来る。
ある原子が隣にある空孔と位置が入れ替わるのに必要なエネルギーは比較的小さく、
従って空孔には頻繁に隣の原子が入り込み、次々と空孔を順送りにすることによって原子は動く。
これを拡散(自己拡散)と呼ぶ。
固体の金属においては原子よりは空孔の方が圧倒的に密度が低いから、
原子が動いているというよりは空孔が動いていると言った方がイメージに近いが、
この空孔の動きにより金属原子は撹拌されて、原子は次第に拡散(席を移動)して行くわけである。
空孔密度は温度が高くなると(指数的に)増加する。
空孔が増えると拡散が頻繁となる。
で、空孔密度が原子数の0.01%位になると、凝集力よりも拡散の方が優勢となって、自重に耐えられなくなる。
これが融点と言う訳である。
従って、融点が低いとは、
空孔が出来易いとか、凝集力が小さいとか、空孔への移動エネルギーが小さいとか、
そういう事になる。

さて、今度は逆に凝固について考えてみる。
溶融も凝固も同じくらいの温度の場合が多いので同じ現象のように思われるかもしれないが、
次第に自重に耐えられなくなる溶融と次第に凝集する凝固はマクロ的な順序が違うのでかなり違った現象となる。
各々が自由に動いていた原子がただ接近遭遇しただけで凝集すると考えるのはおかしい。
そもそも凝集力よりも運動エネルギーの方が大きいから液体だったのだから、
接近遭遇してもただ弾きあうだけと考えるのが自然である。
もし、壁面に(すなわち固体として凝集安定している部分に)衝突して運動エネルギーを奪われれば凝集するだろう。
従って壁面付近や、既に凝集を開始した部分から凝集しやすい。
凝集により奪われるエネルギーは衝突する角度によって変わる。
このため、ある角度の方に選択的に凝集は成長する。
金属がデンドライト(樹状結晶)状に凝固するのはこのためである。

と説明されて、「なるほど」とか「まあそんな感じだな」とだけ思ったあなたは従順すぎる。
「原子がただ接近遭遇しただけで凝集すると考えるのはおかしい」と書いたが、
実はこれは正確ではない。
固体の内部の原子と表面の原子の状態は異なる。
s軌道電子の軌道が概ね球状なのも、d軌道が概ね互いに決まった方向なのも固体内部での話であって、
表面付近の原子の電子軌道は内部よりも大きく偏る。
偏った軌道の電子は通常エネルギーが高めとなる。
つまり、凝集体に衝突した原子は電子軌道の偏りのために、
すなわち偏った電子軌道で準安定化するのに必要な電子の運動エネルギーのために、
原子の運動エネルギーの相当分を奪われる。
その分衝突された側の凝集体の原子の電子は、より等方に近づいてエネルギーを開放するのだが、
広範囲の原子が少しずつ開放するので、即反射という事にはならず、
衝突した原子が運動エネルギーを失う方が支配的となる。
従って、凝集体に接近遭遇した原子はそれだけで幾ばくかの原子の運動エネルギーを失う。
(電子配置にもよるが、)この傾向(原子の運動エネルギーを奪われる量)は
電子軌道が偏った状態で準安定化しやすい原子、
すなわち偏るだけの空間を持つ原子、すなわち原子半径が大きい原子ほど顕著となる。
多くの金属は一旦融けきる(原子がばらばらになって大きな凝集体が無くなる)と温度を下げても
(人の感じる時間において)すぐには固体にならない(いわゆる過冷却)が、
原子半径の大きい元素は速やかに凝固する。

再び溶融に話を戻そう。
融点が概ね0.01%空孔が出来る温度だとすると、空孔が出来易い元素ほど融点が低いことになる。
空孔の部分は、もし電子が偏らないと電界の変化が大きくなるから、それに逆らって1個の空孔を作るのに必要なエネルギー、
すなわちより高い温度が必要となる。
従って、電子軌道が偏り易いほど、空孔は出来易くなる。
原子半径の大きい元素は電子が比較的容易に偏るから、空孔を作るのに必要なエネルギーが小さい。
従って原子半径の大きな元素は(より低い温度で)空孔密度が高くなる傾向があり、融点が低い。
また、s軌道よりもp軌道の方が偏りは大きいから、第13族以降の方が融点は低い傾向がある。

と、ここまでは純金属、すなわち1元素による金属固体を考えてきたが、複数の原子がある場合には
各々の原子半径が違うために最密充填とはならず、隙間が出来る(ようなサイズの組み合わせが多い)。
そしてこの隙間の出来方は原子半径の関係や各々の個数(密度)で変わる。
うまく(周期性が低い状態で)隙間が出来る組み合わせでは、純金属の場合よりも空孔密度が高くなり、融点が低下する
(周期性が高くなると固体全体の周期性による安定性が優勢となって空孔は動けなくなる。
つまり、1つの空孔が動こうとするとき、これを妨げようとする遠くからの影響の多くが同期してしまうと、
全体としては強い反力となり、空孔は動けなくなる。)。
(なお、例えば電気陰性度の違いで元素の組み合わせや構成比率により原子半径自体も変化する点は別途考慮する必要がある。)
もちろん、互いに引っかかりあって動けなくなるような大きさの組み合わせ(特に凸凹の大きい≒原子半径の小さい元素同士)
もあるから空孔密度が増えたからと言って必ず融点が低下するという訳ではないが、
このように考えると合金化すると融点が下がるという性質は、よくありそうな現象なのである。



2013-8/18




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