クトナホラ石(クトナホライト、kutnahorite)はマンガン鉱物で、見かけによらずずっしり重い。
さすがは金属鉱物って感じです。
成分は、Ca(Mn+2,Mg,Fe+2)(CO3)2 。
変色したのは恐らく光酸化により二酸化マンガン(あるいは酸化鉄?)を生じたのではないかと思われます。
還元してやれば良さそうですが、母体となる鉱石はドロマイト、つまり主成分に炭酸カルシウムを含む鉱物で、酸に弱いはず。
酸性でない還元剤を探さないといけません。
酸化剤は電子を奪う力の強いもので、つまり最外殻電子の運動エネルギーが比較的小さい状態で安定しているもので、
酸性のものは大抵はそうなので酸化剤の多くは単純に酸性のものですが、
一方ほとんどの還元剤は単純にアルカリ性という訳ではありません(むしろアルカリ性のものはほとんどありません)。
還元剤は電子を与える(押し付ける)力が強いもので、つまり最外殻電子の運動エネルギーが大きいものですが、
十分に運動エネルギーが大きいと分子構造が安定ではなくなります。
つまり還元性を強くするには、単純なアルカリ性よりも不安定な分子であった方が良いという事になります。
不安定な状態では保存性に難があるため、通常は別の分子状態をしていて、使用する際に不安定な状態になるものが好ましく、
例えば水に溶かしたり、酸性にすることにより不安定な状態に変化するものが使用されます。
鉱物の還元としては、水晶表面の酸化鉄の還元除去に古来よりシュウ酸が良く用いられますが、
シュウ酸はカルボン酸なのでかなり強い酸性で、水晶のような酸に強い鉱物ならともかく、
炭酸カルシウム鉱物だと鉱物自体を溶かしてしまうと考えられます。
還元剤は、衣料の染み抜きとか、藍染めのインディゴの還元とか、結構身近で使用されているらしいです。
色々探してみても(使用する状態で)アルカリ性のものは見つかりませんでしたが、
中性に近い強い還元剤は幾つか見つかりました。
とりあえずロンガリット(ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム)と
ハイドロサルファイト(亜ジチオン酸ナトリウム)と言うのを購入してみました。
Webで調べた限りでは、ロンガリットは酸性、ハイドロサルファイトはアルカリ性にするとより還元力が高くなるようですが、
中性付近のままでもかなり強い還元性があるらしい。
ロンガリットの方が還元性が強いらしいですが、ホルマリン(ホルムアルデヒド、ハウスシック症候群の原因物質)を含むため、
室内に展示する鉱物にはできればあまり使いたくはない
(表面に付着しただけなら沸点-19.3℃だからすぐに揮発して無くなるでしょうし、
相手が鉱物なら熱風でも掛けてやれば十分な話なのでしょうが)
ので、まずはハイドロサルファイトで試すことにしました。
ちなみにハイドロハイター(花王)というのもありました。
主成分の二酸化チオ尿素は酸性ですが、炭酸塩で弱アルカリ性に調整してあるようです。
しかしこれは金属イオンを取り除くための成分が入っているようなので、
透明な鉱物をきれいにするのには良いかもしれませんが、
今回の用途では鉱物の色が白っぽくなってしまいそうなので選外です。
さて、ハイドロサルファイトを少量の水に溶いて、
まずは目立たない所にちょこっとつけて、
おおー、一瞬で色が変わった、これはすごい効果あり。
すぐに水で洗って、乾燥させて、顕微鏡でじっくり確認。
どうやら結晶表面は侵されていないようです。まずは一安心。
ならばあとは黙々と、綿棒に付けた水溶液をぺたぺたと。まずは半分。
良い感じです。
で全面やって、ティッシュに残液吸わせて、これでもかという位洗って、更に水に1時間漬けて、
エアーで水をとばして、真空乾燥させて、・・・結果こんな感じになりました。
まさに新品同様。
今度は紫外線対策しましょう。銅の化成処理用に使っているベンゾトリアゾールを薄く塗っときましょう。