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空想DIYを紹介するページです。


風力発電用の発電機の自作

先人の教えに従い、アキシャルエアーギャップ方式の発電機とする。

皮算用


磁気回路

一般に発電機は、コイルを通る磁束を変化させたときにコイルに発生する起電力を利用する。
より大きな磁束変化量で、より速く変化させると、より大きな発電電力が得られる。
傾向としてはたぶん、磁束変化量が電流、変化速度が電圧になりそうである。

より低速な回転で大きな発電電力を得たいから、如何に磁束を大きくするかを考える。
磁束の発生源には磁石を使う。磁気回路での磁石を、電気回路での電池に双対させて考える。
電流に相当する磁束を大きくするには、電圧を高く(磁石を強く)、
抵抗を小さく(磁気抵抗を小さく)する。
強い磁石と言えば、ネオジム合金磁石である。

(注:以前、「ネオジム」はネオジウム合金の商標だと教えられてこれまで信じていましたが、
調べてもそんな商標は見つからず、「ネオジウム」が「ネオジム」の誤表記ということだったようです。
上記部分は修正しました。)

磁気抵抗を小さくするには、透磁率の高い素材を使う。
鋼鉄とか、SUS430が手頃そうであるが、雨水に暴露する訳でもなく、
化成処理をしてしまえばそう錆びるものではないだろうから、より透磁率の高い鋼鉄を使おう。
さて、ローターとステーターには互いに擦れないようにギャップ(空隙)が必要である。
しかもこのギャップは磁束が一巡する経路になるので、磁気抵抗となる。
鉄の比透磁率(ほぼ、空気との比に相当する値)は、仮に不純物が多かったり
圧延で複雑な状況になっていたとしても、5000はあるだろう。
(つまり同じ断面積と長さなら抵抗は1/5000。)
磁束が一巡する経路は短い方が良いが、コイルのサイズを考えると総延長で
50mmくらいは必要だろう。この50mm全部が鉄だった場合に相当する磁気抵抗は、
空気ならば5μmのギャップで発生する(断面積が同じとして。磁束が一巡する間に、
ローターとステーターの間のギャップを2度通過する)。
しかし、エアーギャップ5μm以下で常にこすれずに回り続けられるような
工作精度は、個人の自作では難しい。

つまり、普通に作ったら磁気回路の断面積や総延長などほとんど気にする必要はない。
磁気抵抗のほとんどはエアーギャップで発生することになる。
従って、磁束を大きくするには、如何にエアーギャップを小さくするかが重要となる。
工作精度が出しやすいように(エアーギャップを小さくしやすいように)
平面を向い合せるのが、風力発電の自作者が一般にエアーギャップ発電機と呼ぶものらしい。
旋盤を使えば外径と内径を接近させてもそれなりに近づけられそうだが、
工作が簡単なのに越したことはないので、類似の構造とする。
先人の中には磁石の間隔を全部エアーギャップにしている例が多いが、
これはエアーギャップが非常に広くなるので磁気回路的によろしくない。
磁石とコイルの間隔がエアーギャップになるような構造にすべきである。
つまり、コイルの芯は透磁率の高い素材で埋めるべきである。
話の流れからすれば、コイルの芯は鉄を使うところだが、
実際にはソフトフェライトコアを選択した。(軟らかいフェライトではなく、軟磁性のフェライト。
ちなみに最初はソフトフェライトの粉末を樹脂で練って充填しようかと思ったが、
フェライトって焼結しないとあんまり透磁率が大きくならないのね。
しかもスピネル結晶にしないといけないって作るの難しそう、で断念。)
コイルの芯の部分は放熱し難いので発熱の少ないソフトフェライトの方が
良さそうだし、比透磁率が小さいとは言っても260なので、
エアーギャップにしてしまうよりは遥かに磁気抵抗を減らせる。
コイルの芯に透磁率の高い素材があればコイルを薄くする必要はないので、
作りやすいように長めにする。長くすればコイルの直径も小さくできる。
(例えば5mmのエアーギャップの磁気抵抗は、20mm長の比透磁率260のコアの
65倍に相当する。)

さて、磁石が電池と違う点の1つに、反磁界と言うのがある。
N極から出てくる磁束を利用したいとき、すぐ近くにS極があると
N極から外向き(S極と逆向き)に出てくる磁束が減る。
外向きに出てくる磁束を大きくしようと思ったら、S極をN極から
遠ざける必要がある。つまり厚みのある磁石を使った方が良い。
ところが、S極に高透磁率素材を接触させると、磁石を長くしたのと等価になる。
つまり、磁石を鉄に良く密着させれば、薄い磁石でも大きな磁束を発生できる。
ということで、高価な分厚いネオジム磁石を使わなくとも、片側を鉄との密着させれば
ある程度の結果が出せるということである。
今回使ったネオジム磁石の厚みは2.5mmである。


コギング対策(磁石とコイルの数)

磁石はローターの両面に付けて、ステーターがローターを両側から挟む構造とする。
ローター1枚とステーター2枚なので、ローターの裏表が発電機になる。
透磁率が高い素材は磁石にくっつくから、複数の磁石とコア(コイル)のペアの最接近が
なるべく同期しないようにする。つまり磁石の数とコアの数が同じ素数を持たないようにする。
磁石はN,S交互に並べるので偶数にする必要がある。
ここでコアを奇数にするとローターにモーメントが掛かりそうなので、
180°位置のコアと磁石は同期させるとしてコアも偶数とした。
従って、2以外の同じ素数を持たないようにする。またスムーズに回すためには、数が多い方が良い。
ということでコアを片面12個、磁石を片面14個とした。

また、よりスムーズに回るようにするためには、ローター表裏のコイルと磁石の位置関係をずらした方が良い。
ローター表裏の磁石の引き合うバランスを考えると同期させた方が良いが、
コイルと磁石の両方の個数に同じ素数(=2)を持たせてモーメントバランスを取ってあるので、
ここはスムーズに回る方を優先する。
(逆に表裏を同期させて、コイルを奇数にするのでも良いが、
ローターの軸対称性より表裏の磁気的構造対称性の方が悪そうに思えたのでこうした。)
さて、コイル12個、磁石14個だと、コイルと磁石は共通の素数として2を持っているから
片面は同時に2か所同期する(180度に1つ同期点を持っている)。
仮に両面の磁石の角度を半分ずらすと、裏面は90度で同期するから、
表裏で4ペア同期することになり、ずらす前と変わらない。
360度を、コイルと磁石の数の各々の素数またはその積で割った角度ずらすと同期する。
コイル12個の素数は2、3、磁石14個の素数は2、7である。
先の360/14の半分は360/28で、分母の28は2*2*7だから、(2,3)と(2,7)の積である。
(各組の同じ素数を2回掛けたものでは同期しない。2*2*7を分母とする360/28回転では同期するが、
例えば、2*2*2*7=56を分母とする360/56回転や、2*7*7を分母とする360/98回転などでは同期しない。)
コイルと磁石が同期する最小回転角は2*2*3*7=84を分母とする360/84=4.29度である。
従って、最もスムーズに回る表裏のずらし角度は、360/84/2=2.14度となる。
ローターの周長はφ100mm×π=314mmだから、2.14度は周長として1.87mmに相当するので、
周で1.87mmずらした所に印をつけて、これを基準にローターの表裏の磁石をずらした。
ある磁石の裏側に近い場所に位置する磁石の向きには悩んだ。
磁束変化量を優先すると同極を向い合せた方が漏えい磁束が少なくて済みそうだが、
磁気抵抗が増加しそうだし回転のスムーズ性にも不利な気がする。
さすがにこれは簡単なシミュレーション程度ではうまく計算できそうな気がしないので、
磁石の固定安定性も含めて勘でNとSを向い合せた。

コイル

さて、両面ステータで構造効率がいいということは、逆に言えばコイルの数は2倍必要になる。
がんばってコイルを巻かないといけない。
ということで、次はコイルを何ターン巻くかである。
以前、200ターンと2000ターンの電磁石の極の磁力をホール素子で測定したことがあるが、
電流×ターン数で、550Aで50mT、1100Aで100mTといった感じだった。
今回の半分くらいの極面積だったから、電流×ターン数に対する発生磁束量が同一と
仮定すると今回のコイルは1000Aで50mT程度となる。
今回使う磁石の2000ガウス(=200mT、極を遠ざける効果でもっと大きくなるだろうが)
に相当するのは、コイルの電流×ターン数で言えば概略4000A相当である。
仮に1000ターン巻いたとして線に流れる電流は4A相当になる。
仮に漏れ磁束やら発熱やらで1/4に減るとしても1A相当である。
これは、コイルの作り勝手から考えると、ネオジム磁石の磁束密度は高過ぎなのかもしれない。
コイルのターン数を節約したいので、線にはかなり無理して大電流を流す必要がありそうである。
磁石はネオジムでなくフェライト程度が丁度良いのかもしれない。
まあとりあえず巻けるだけ巻いてみて、もし発熱的に電流を流せそうになかったら、
ギャップを広げて取り出す電流を減らせばよいし、
あるいはローターに羽付けてエネルギーの一部を冷却に回してもよいだろう。

ところで、仮に10Wの発電として、1Aなら10Vである。
例えば3m/sの風の持つ電力が17W/m2で風力発電の理論限界(取り出せる電力の限界)が約60%。
仮に発電機の効率を20%として、2W/m2。風車はせいぜい1m2位の物になるだろうから、
仮に1Aとすると2Vなので、昇圧回路が要りそうである。
しかし、仮に20m/sの風が吹くと(20/3)^3=296倍で592V。
より低い電圧から昇圧できるようにするか、風速の上限を低くするかを
考える必要がありそうである。
電圧に応じて直列と並列を自動切り替えできれば良いのだが。
まあ、これから先は作ってみて実際の電圧を計ってからの方が良さそうだ、
仮定が多過ぎて雪だるまになっている可能性もあるし。
と、ここまで皮算用して、製作に入る。

製作

機械部分

とりあえず構造は図のようなものにした。あとは作りながら調整していこう。
  
まずは鉄板である。
本来の鉄板は非常に安価なものであるが、一般受けしないのか少量では入手難である。
試しに加工費込みで見積もってもらったら、予想よりも安価だった。
鉄だと切削刃物の減価償却もばかにならないし、この値段なら自分で加工する気にはならない。
ということでレーザー加工をお願いした。
加工精度が不十分であることを前提に、寸法を調整できるような構造にしたが、
購入後分かったのは、実は0.1mm精度とのこと(すごい!)。
これならズバリ寸法前提の設計が出来る。こんな面倒な構造にする必要はなかった。
M4ねじ用の穴も開けてもらえばよかった(こんな小さな穴は開かないと思っていた)。

さて、次にベアリング固定金具。
アウターローター(軸を固定してローターを回す)にするか、
ベアリングを2倍使って2つのベアリングで1つのステータを挟めば
ベアリング固定金具は省略できるが、今回は作ることにした。
(後で思うと、これも板を重ねる構造にした方が簡単だった。うーん、次に機械作る時は、板の集合体になりそうだ。)
CADで図面描いて、CNCおもちゃで荒削りして(15時間くらい掛かった。
といっても途中でWindowsがおかしなことをしないか祈りつつ、ただ待つだけだが。)、
旋盤で精度が必要な部分だけ調整する。
  

ボルトはSUSのM10とした。
SUSにするのは透磁率の低い素材にして磁気抵抗を増加させ、
コイルを通らずにボルトに向かう磁束を減らすためである。
まあ、ギャップ1mm以下の構造ではおまじない程度なのだが。
ところで、長いM10ボルトは意外と売っていない。
一般的でない部品を使った工作が出来るのは、インターネット販売があるからである。ありがたい世の中になったものだ。
軸の内部スペーサーは、最初は削り出す気でいたが、鉄板の穴の精度が良かったので樹脂パイプの隙間に銅板を巻くことで誤魔化した。
軸の外部スペーサーは、最初塩ビパイプを使って作ったが、がたが出たので真鍮で作り直した。

コイルを巻く

次はコイルを巻く。その前にジグを作らないといけない。
コイル巻きジグはPOMから削り出し(エポキシが付かない素材ということで)。
 
さてコイル巻きである。整然と巻けばポリウレタン線0.4mmで400ターンくらい行けそうだが、
数が多いのでいいかげんに巻くとして350ターンとした。
(なぜPEWじゃないかって?、偶々手持ちがあったからです。まあ、おもちゃだからいいでしょう。)
ポリエチレンのラップをジグの芯に巻いて、あとは黙々と・・・。
で、さらさらのエポキシ樹脂で固めて、ジグから引っこ抜いて、ラップを外して完成。
(写真に写っている青いシートはブルーグラシン紙。PP板でも可。)
  
で、コアの位置決めジグを作って(これはPP板)、鉄板にコアをエポキシ接着剤で固定する。今度は粘っこい普通のエポキシ接着剤。
     
でコイルをコアにセットする。

とろとろのエポキシでコアとコイルを固める(エポキシが固まるまで先のコアの位置決めジグを使ってコイルを沈めて仮固定する)。

整流回路

相が多いし、発電電圧が低いときのVF損失ももったいないので、整流回路は両波倍圧整流回路(全波倍圧整流回路)とした。
下の写真は左はダイオードを並べたもので、右はこれをコイルに接続した状態。。
  
ローターは、鉄板にフロアタイルから削り出した磁石位置決め板と軸の外部スペーサーが接着してあります。
スペーサーはエポキシ接着剤、フロアタイルは粘着系接着剤です。
で、部品勢揃い。で、完成。
 

反省点

ベアリング固定ねじをきつく締めると軸の回転が重くなった。
軸ボルトによるステーター間の固定が基本の構造なので、ベアリング取り付けなどの他の部分はゴムなどで遊びを作るべきだった。

出力波形

デジタルオシロを買ったので、測定してみました。
(1Gs/s、100MHzの新品DSOが送料込み3万円で買える時代が来ようとは・・・。)
+,−出力に抵抗負荷つないで(コンデンサは無し)、接地出力からみた+出力の電圧を観測してみました。(片側は開放。)
指で軸を回してるので回転数はいい加減ですが、左が47Ω負荷、中と右が10Ω負荷。10Ω負荷だと結構回すの重い。
     
軸の回転数に従って電圧が変わっているのが分かります。さすがに12相だとリプルは細かい。
47Ωの時、回し始めて指を離したときが最大回転数として、それまでに軸は半回転くらいしていて、125ms位だから
平均4rps=240rpmくらい。これで平均1.2Vくらい。
機械的バランスはかなり悪そうだから5000rpmも回したら壊れそうな感じなので、最大でも25V*2くらいを考えておけば良さそう。
エアーギャップを1mm程度にしたのは丁度良かったようです。
さて、風力発電の方はいつになることやら。ほとんど興味が冷めてしまっているので作らずじまいかも。空想工作ノートはあるんですがねえ。


追加

旋盤で回してテスターで電圧計ってみました。DSOを持ち込むのは面倒なので波形は無しです。
ステーター出力を両側並列接続し、68μF/50Vの電解コンデンサ(2個)で平滑しています。

僅かコイル2直列分にしては、結構な電圧が出ています。昇圧回路を使うには、手頃な電圧のようです。



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