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色素増感太陽電池の謎

色素増感太陽電池の記事を読んでも何だかメカニズムが良くわからなかったので、調べて分かった気になったという内容です。

基礎知識

まず基礎知識として、
酸化物半導体(TiO2)とか色素とかには最も不安定な(最外殻の、電子の運動エネルギーの大きい)電子軌道に
HOMOとLUMO(いわゆる伝導帯)という2つの準位があって(バンド図ではLの方が上なのでややこしい)、
また異なる素材の間には酸化還元電位と言うのがあって各々素材間の準位の高さ関係を決めています。
金属の最も高い準位はフェルミレベル(電子の存在確率50%にて定義される)で、
これとの電位の高さ関係も酸化還元電位で決まります。

色素増感太陽電池は色素のHOMOの電子が光刺激によりLUMOに励起して、半導体のLUMOに落ち、
これが対向電極のフェルミ電位=電解質の準位に落ちる電位差で負荷にエネルギーを与え、
電解質の準位から色素のHOMOに落ちる、というメカニズムを持っています。


私が妙に感じたのは「なぜ負荷を通らずに直接電解質の準位に落ちないか」ということです。

普通に考えたら負荷を通って1周するより、すぐ近くにある、より低い電解質準位に落ちそうなものです。
最近のメカニズムの説明はどれもこの部分が端折ってあって、遡って古い文献でやっと答えが見つかりました。
色素のLUMOからTiO2への電子注入はフェムト秒オーダー、
一方色素のカチオンラジカルの還元は10^-8秒(10ナノ秒)オーダー、
つまり電解質の準位に落ちるには時間が掛かるので、待ちかねて負荷を通って対向電極まで落ちるということでした。
(別にTiO2が速い訳ではない、半導体や金属ならこの程度でしょう。むしろ電解質が異様に遅い。)
時間差というのは整流現象(非可逆性)の基本なんだなぁと改めて思った次第です。
ちなみに一般に半導体としてTiO2が使われるのは
LUMOがH2/H2O準位より上、HOMOがO2/H2O準位より下(つまり水中で自己溶解しない(腐食されない))で、
かつ水に溶けないといった水中で使うのに必要な条件を満たす半導体がほぼこれしか見つかっていないためらしく、
水溶液中で長期間安定に使える半導体はほぼTiO2しかない状況のようです。
表面積が大きいのはおまけで、このおまけのために大変効率も良いという事らしい。
で、幾つもの準位の階段を落ちる途中の階段が負荷に使える(電力として取り出せる)ということで、
効率のよい準位の素材が見つかる確率は半導体だけの太陽電池よりも低くならざるを得ないようです。




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