本文へスキップ

空想DIYを紹介するページです。


赤外線サーモグラフィの自作

NX6120を修理している時に、ふと思いついて赤外線サーモグラフィーを作ってみた。
以前から空想工作は何度かしていたが、面倒だったり、金掛かりそうだったりで作るまでには至らなかったものである。
つまり実際に作ったのはかなり低コストである。
ちょっと勿体付けて、この着想以前の空想工作の方から紹介しよう。

NX6120修理以前の空想工作

1.CCDを使った赤外線写真による方法

CCDセンサーは元々波長1000nm(1ミクロン)付近までの赤外線に感度がある(700nm以上では感度が低下する)。
一方、可視光から赤外までの広い波長で焦点を一致させるのは難しいので、
赤外線に感度があると可視光画像にぼけた赤外線画像が映り込んで画質を低下させる。
これを防止するためにカメラには赤外線カットフフィルターが内蔵されている。
従って、カメラ内部の赤外線カットフィルターを赤外線だけ透過するフィルターに入れ換えれば、
感度は悪いものの赤外線だけの映像が取れる。
この方法は工作的には簡単そうだが、撮影可能な波長に難がある。
300K程度の温度を測定するには、波長5000nm(5μm)程度以上での感度が必要であるが
冷却してもCCDでは1700nmくらいまで。
少なくとも1000℃以上が撮影対象となる。こんな高温な撮影対象にはあまり興味がない。

注:現在なら、アップコンバージョン蛍光体を利用する手もあるかもしれません。適当なものが入手できれば、ですが。


2.赤外線センサーを使う方法

サーモパイルなどを使う方法である。センサーは1点でも、赤外線の方をスキャンすれば画像になるだろう。
レーザー描画の逆をやればよいのでスキャン手段は1から作らなくとも色々転がってそうだ。
ただし、市販されているサーモパイルの反応速度は遅い。画像を撮るのに滅茶苦茶時間が掛かりそうだ。

3. 熱電対のマトリクスを自分で作る方法

マイクロボロメータは個人工作でおいそれと購入できるような金額ではない。しかし、構造は至って簡単である。
似たようなのを自分で作れないだろうか。
仮に極小の熱電対を並べたものを自作できたとして、検出回路は信号が微小で難しそうであるが作れないほどでもない。
(例えばアルメル-クロメルで0.04mV/℃程度なので、0.1mV以下の精度が欲しい。)
熱電対の切り替え(スキャン)に使えそうなマルチプレクサICもありそうだ。恐らく回路部分は作れるだろう。
・・・つまり、「極小の熱電対を並べたものを自作でき」れば、製作は可能なようだ。
熱電対を並べるのは、どのくらい難しいだろうか?。
例えば、320*240ピクセルを32*24mmに並べることを考えてみる。つまり、1mmに10個である。
熱伝導度の高さに問題はあるが、ここでは銅-コンスタンタンの熱電対とし、板状の表面を測定側、裏面を冷接点とする。
コンスタンタンを板の厚み方向に並べ、表面と裏面を銅でつないでいく。
例えば、箱根細工方式を考えてみる。
樹脂フィルム、コンスタンタンフィルム、銅箔を重ね合わせて0.1mm厚みとなるように積み重ね、
断面を50μmの厚みで削ぐ。カンナ屑で50μmくらいなら普通に出来る程度なので、もしかしたら削れるかもしれない。
50μm厚の樹脂フィルムなら、例えばカプトンテープがそうである。
粘着銅箔テープは70μmなどだが、多くは導電性。画材用の銅箔が薄そうだが、厚みが書いていない。
銅は銅ペーストという手もある。
コンスタンタン箔(0.05mm厚)やコンスタンタン線(φ0.05mm)も入手可能なようだ。
(注:銅ニッケル合金は白銅(ニッケル10〜30%)が一般的である。これに対し、コンスタンタンはNiが45%である。)
なお、銅ニッケル合金のめっきは難しいらしい(銅が先に析出するため)。
つまり、ただ並べるだけなら自作できるかもしれない。
問題は、どうも信号をどうやって取り出すかにあるようである。
これはどうしてもリソグラフ的な手法しか思いつかなかった。個人工作で微細リソグラフに手を出すのはとてもめんどい。


NX6120修理時の着想

故障部品を探すために電子部品にサーモペイント塗りながら、個人でサーモグラフィが買えるようになったら
こんな基板が汚くなるようなことしなくても良くなるのに、とか考えていてふと思った。
室温よりやや高い程度の温度の赤外線画像を撮るには波長5μm程度での感度が必要になるが、
通常この波長では輻射による温度上昇を測定する。
つまり赤外線そのものとの直接作用というよりは、赤外線が当たったことによる温度上昇を測定する。
ならば、温度で色の変わるサーモペイントでも良いはず。温度の低い対象からの輻射で温度を上げるには、
サーモペイントを塗る板の熱伝導を悪くし、レンズで思いっきり集めればよいだろう。
100℃くらいなら見れるんじゃないか?。
赤外線用のレンズは高価なので、凹面鏡にすればよさそうだ。
輻射が来る方向から見ないといけないので、カセグレン反射望遠鏡状態にして、
焦点にサーモペイントを塗った板を置いて、反射鏡の穴から観察しよう。
というアイデアである。
まずは皮算用、実現性について考察した。

輻射を受けた物体の温度上昇の計算

エネルギーの流入により輻射平衡温度が変化するはずである。
ステファンの法則によれば、輻射のエネルギー密度uは、u=(4σ/c)*T^4 (σはステファンの定数)とT^4に比例する。
外部から輻射を受けるエネルギーをA、輻射吸収率をBをおくと、流入するエネルギーX=A*B。
これによる温度上昇T1は、(T+T1)^4-T^4=Xより、T1=(X+T^4)^(1/4)-T となる。
仮に発熱体から20cmの位置に直径10cmのレンズで集光したとして、輻射効率100%、輻射吸収率100%とすると、
回収するエネルギーは概略、π*(10cm)^2/(4π(20cm)^2)=1/16 だから、
発熱体の温度が周囲温度TよりT2だけ高い場合、
X=(1/16)*(T+T2)^4より、T1=((1/16)*(T+T2)^4+T^4)^ (1/4)-T 
となる。
しかし、この計算はちょっとおかしい。
そもそも40℃から放射される赤外線で40℃以上に温度が上がるわけがないのに、計算結果は幾らでも上がる。
・・・この先いろいろ考察しているが、面倒なので省略する(というか昔のことでメモ見ても良くわからん)。
まあこんな感じの考察をああでもないこうでもないとやったわけである。
結果、Excelで計算していて、以下のようなメモに至る。
結果は大変面白いもので、仮に大気の対流がほとんどなければ、
対象温度が100℃のとき、受光面の温度上昇が100℃もあり得なくはない、というもの。
実際には大気の対流でかなり冷えてしまうのだが、受光面に粘りついて動かない大気を
1mm厚くらい期待すれば、20cm離れた対象が100℃の時に14.6℃、50℃の時に8.2℃という計算になった。

つまり、100℃のものを観測したら、サーモペイント温度を10℃くらい上昇できる計算になる、
ということで、作れそうだということ。
(できれば受光面は真空にしたい所だけど、赤外線と可視光の両方を透過する素材が思いつかなかったので
ぐちぐち計算して、仮に大気の対流があっても受光面表面に粘りつく大気がある程度あれば、
反射レンズの口径をある程度大きくすればいけそうという見通しを得たということ。)

実際に作ってみた

この工作は簡単なので、早速作ってみた。
(メモによればこの後凹面鏡の製作方法をあれこれと考えているが、これ以上ひっぱるのも興ざめなので割愛する。)
受光面は、発泡ポリスチレン上に紙を貼った状態で売られているものに、サーモペイントを水で薄めてエアーブラシで吹いた。
受光面を、反射鏡の焦点に置いた。

結果:
最初の観測対象ははんだごてである。
まずは可視光で焦点を合わせ、はんだごてをオンする。
はんだこての形に一瞬で色が変わった。予想以上の効率である。
続けると温度が上がり過ぎて受光面が変質しそうなのですぐに中止する。
これはかなり低い温度まで期待できそうである。
サーモペイントの色変化温度が30℃ということなので、室温を25℃に調整し、観測対象をお湯にしてみた。
お湯の形がはっきり見える。
お湯が冷めていくと、60℃くらいまでははっきり見え、52℃で変色は消失した。
Excelの計算で、大気の相当厚みを0.5mmにすると計算が合うようになる。
この計算で対象温度を300℃とすると・・・はんだこてを即中断したのは正解だった。
予想以上にうまくいった。
今回は安物のサーモペイントを使ったが、広い温度幅で色変化するものを使えば、体温でも見えそうな感じである。

当時のものを再現してみた

なお、これは文章だけでは分かりにくいと思ったので、再現してみました。
今回は手持ちの3Dマジックスコープから凹面鏡を取り出しました(むしろこれを見つけたから作ったんですが)。 
これなら工作は簡単。 
受光面を拡大するためのレンズは省略。
工作が超手抜きですが、構造のイメージはつかんでいただけるかと。
でも再現ために高価な液晶サーモクロミックインクを買う気にはならなかったので、以前と同じサーモペイントです。
なんか固くなっててきれいに吹けてないですが、そこは見ないでください。
  
お湯で温めたフォークを見てみると・・・あれ、見えない。なぜ?。
この反射レンズ、もしかして鏡面の上に何か赤外線吸収する透明層があったりして。
(ガラスの拡大鏡がそのまま使えないのはこのため。同じように何かコーティングしているのかも。)
試しに赤外線温度計で計ってみると・・・温度が低い。でも触ってみると熱い。
もうお分かりでしょう。金属光沢面はダメなようです。
で、ホットボンド用のグルーガンに耐熱テープ貼り付けて、発熱部をマジックで黒く塗って、加熱して撮影しました。
可視光もうっすら見えてしまうので、紛らわしいので対象物の部分だけ覆って暗くしてあります。
受光面は光を当てないと見えないので、部屋の照明は付けたままです。
     
あまり温度が上がらないうちに電源を抜いたんですが、まだちょっとオーバーぎみでしょうか。
まあ、こんな感じです。このサーマルペイントは温度が上がると白くなるタイプです。
倒立なので左右逆ですね。
もっと広い温度範囲で順次色変化するものを受光面に使えばもっと鮮明になるはずです。
最近はCO2レーザー彫刻機おもちゃ用の赤外線レンズが比較的安価に売られているようです。
面積が小さいですが真空引きして対流を遮断すればかなり低温まで見れるのではないかと思います。
(どうやって受光面を観察するかに工夫が要りますが。可視光で透明、赤外線で不透明の膜に塗って
透過で見る?。しかし、あんまり熱抵抗上げ過ぎると、熱時定数が長くなり過ぎそうだし。)
興味とお金と時間の余裕のある人は色々と試してみてください。


更に追記

液晶サーモクロミックシート(Thermochromic liquid crystal sheet)というのを英国から買ってみたので、
試した結果を書きます(大概何でも高い国ですが、科学玩具だけは日本より遥かに安い、
また郵送OKなので日本からより送料も安い。さすがは科学大好きな国、市場があるんですねえ。
そう言えば昔立ち寄った時の科学博物館の混み方、半端じゃなかったですもん。)。

まず、これは(少なくとも)7層構造でした。
上から、

@ 透明な比較的脆い樹脂板(ポリエステル?)
A サーモクロミック層(液晶のマイクロカプセル)
B 黒いゴム状の板
C 粘着層
D 薄い丈夫な透明フィルム(PET?)
E 粘着層
F 剥離紙

触ってみると、反応がとても遅く(数秒くらい)、明らかに液晶までの熱伝導が悪いようです。
そこで、層を減らすことにしました。
試してみると、@とDは溶剤にかなり強く、Bは溶剤に弱く、
Bが溶融するとサーモクロミック機能に影響があることが分かりました。
(正確には、Aの方がBよりは溶剤への耐性がありましたが、
Aはごく微量であり、かつAがBから離れるとサーモクロミック機能が著しく見えにくくなります。
恐らくBは単なる黒い層ではなく、ごく微量のAでも変色が良く見えるようにするために選ばれた素材のようです。)
ということは、少なくともA+Bは残したい。
ところが、@だけをうまく剥がす方法は見つけられませんでした。
しかし、@と違いBは熱伝導が極めて良く、
@+A+Bの状態でBを触ると瞬時(コンマ数秒くらい?)に反応します。
ということで、@+A+Bの状態で、裏(B側)に赤外線を当てて使います。
これだと上記と観察面が表裏逆になるので使いにくいんですが、まあ遊びの実験ですから。


C、D、E、Fの剥がし方:

Fは、両面テープの剥離紙と同じです。
最初が中々難しいが、つかんでしまえばペロッと剥がれます。
先の尖ったピンセットがあった方が良いでしょう
(ちなみに、最近私はピンセットは中国から買っています。
200〜300円位で、日本で2000円位で売られている位の品質の物が買えます。
うっかり落として先を曲げてしまっても、あまり気落ちしなくて済みます。)。

Eも、両面テープの粘着剤ですから、剥がし方は両面テープの粘着剤を剥がすのと同じです。
下にあるDはかなり溶剤に強いので、Eを剥がすための溶剤は何を使っても良いでしょう。
私はラベル剥がしスプレー(雷神)を使いました。
数分間待って綿棒で粘着剤をこすり取り、更にラベル剥がしスプレーをかけ、ティッシュペーパーできれいにふき取ります。

Dは力技です。先の尖ったピンセットで端を少し浮かせたら、ここをラジペンでつかんで、強引に剥がします。
かなり力が要ります。

Cは、すぐ下に溶剤に弱いが残したいBがありますから、溶剤を選びます。
ヘキサン(つまり低極性溶剤)主成分のパーツクリーナーを使います。
アルコール、ラッカー薄め液、アセトン、メチルエチルケトンなどの溶剤は時間に差はあれ全滅でした。
ペイント薄め液はサンプルチェックでは数分くらいはいけそうだったので、短時間に行えば良いかもしれません。
試してないですが、灯油はOKかもしれません(洗浄に灯油を使わなくなって久しい)。


さて、ここまで書いておいてなんですが、
直径13.5cmの「3Dマジックスコープ」のパラボラ鏡では指の輪郭観察は無理でした。
指をかざすと色は変わるのですが、ぼんやり変わります。
焦点の問題かと色々試してみましたが、どうやら入射される熱量が小さ過ぎて、熱の横拡がりに負けてしまうようです。
観察対象がある程度温度が高ければ輪郭がはっきり見えてきます。
体温の画像を得るには、もっと大きなパラボラ鏡が必要なようです。
あるいは、(体温でも液晶の色が変わるだけの温度上昇は得られているということから、)
横方向への熱拡がりだけを遮断すれば良さそうですから、
液晶カプセルをビロード(ベルベット)繊維の先端のようなものに付ければ、対策出来るのかもしれません。
そもそも「3Dマジックスコープ」のパラボラ鏡はプラスチックに銀色の(恐らくはアルミ鱗片粉の)塗装が
してあるだけのものなので、
反射鏡の精度も赤外線反射率も悪いのでしょうが、いずれにせよ集光パワー不足でした。


このページの先頭へ